『永久に』(2000Hit記念・フリー配布小説)
僕は走っていた。
何故走っているのだろう。
一瞬分からなくなる。
ああ、そうだ。
逃げているんだ。
背後から無数の気配と足音がする。
何から逃げているのだろう。
それは、押し寄せる暗闇と拘束から。
奴らに捕まれば、苦しんで死ぬか、永遠に暗い暗い箱の中で生かされる。
では、何故逃げているのだろう。
弾む息遣いは近くに二つ。
一つは自分で、もう一つは…―。
ふと手に熱を感じる。
掴んでいるのは彼女の手首。
そう、彼女を守るために走っている。
「ねぇ、何処まで走るの?」
「…さぁ?」
真っ直ぐに視線を向けて尋ねてくる彼女に、僕は方を竦めて微笑み返した。
そのとき彼女の背に、小さく畳まれた彼女の一部が窮屈そうに収まっているのが見えた。
彼女は異種族だった。
つまり人ではないもの。
この世界では類を見ない、翼が付いていた。
加えて彼女は天才だった。
何をするにも抜きん出ていて、自分の出来と反比例して妬む者もいた。
僕はそんな彼女の助手だった。
やがて愛し合い、異種族だと知ってもその気持ちは変わらなかった。
翼があるだけで、彼女が彼女であることは覆らない事実だ。
毎日が楽しくて、幸せだった。
このまま年を取って一生を終える。
そう思っていた。
だが、それは叶わなくなった。
異種族だとばれたのだ。
ちょっとした油断が今の現状を招いた。
思わぬモノを見つけた研究者と、全ての知識を搾り出してから殺そうとする政治力と警察に
彼女は追われることとなった。
彼女は目を閉じ、耳を塞ぎ、部屋に閉じこもって出てこなくなった。
僕はそんな彼女を見ていられなくなって、彼女の腕を引いて闇夜へと飛び出した。
彼女と共にいるために。
僕たちは追っ手を撒いて、ある廃れたビルへと逃げ込んだ。
もうすぐ朝になるのか、中は薄暗い程度で、照明がなくとも不便はなかった。
階段を登って僕らは屋上へ出た。
少し寒かったが、身体を撫で付ける風邪が気持ちよかった。
乱れた息を煙草を一本取り出して火をつける。
僕は一息吸ってから彼女を見た。
彼女は翼を大きく広げて、風を受け入れていた。
僕の視線に気付いたのか、真っ直ぐな視線を向け、笑みを浮かべた。
そんな彼女の顔が眩しかった。
「…死のうか?」
僕は話を切り出した。
右手には硬くて冷たいものが握られている。
「二人で?」
少しの間のあと、彼女が切り返す。
「そう、一緒に」
「貴方が殺してくれるの?」
「ああ、勿論」
「…嬉しい」
彼女はいつものように微笑んだ。
泣くでも、怒るでもなく。
それは彼女が僕と同じ気持ちでいてくれている証拠。
僕は彼女に銃口を向けた。
「ありがとう…。さよなら」
「僕もすぐ行くよ」
「そうね。じゃあ…愛する貴方を待ってるわ」
「ああ…」
僕はふわりと微笑んだ。
彼女も最上の微笑を返す。
それがここでの最後のやりとりとなった。
僕は引き金を引いた。
銃声が木霊し、彼女の身体が仰け反る。
白い服が赤く染まっていく。
傾ぐ直前、一本の光が彼女を射した。
分厚い雲から覗いた太陽の一筋の照明。
そのとき初めて雲のせいで暗かったのだと知った。
もうとっくに朝日が昇っていたのだ。
光に照らされ、翼を広げた彼女は、本物の天使のようだった。
いや、たった今彼女は天使になったのだ。
天への階段を昇って。
彼女の羽は一枚ずつ風に流されて、ここに残された人となった。
僕は彼女を抱き抱えた。
彼女の顔は目を閉じ、口は暖かく微笑んだままだった。
まるでまだ生きているかのように。
その唇に軽く口づけをする。
僕は自分の頭に銃を突きつけて、微笑んだ。
「お待たせ…」
引き金を引く。
銃声が渇いた空に響き渡る。
二人は折り重なるように永い眠りについた。
もう彼女は苦しむことはない。
彼女は彼女であるまま生き、一生を終えた。
僕たちはこれからずっと一緒。
永久に僕はキミの、キミは僕のモノ。
キミは
僕だけの天使…―。
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どうでしたか?;
初めて書きましたよ。若干恋愛モノ。
自分に経験がないくせに良く書いたな〜と思ったり。
これはフリー配布とさせて頂きます。
気に入ってくれた方は、お持ち帰り下さい。
持っていく人は、書き込みを残してくれるとありがたいです。
そして、これを読んで何かを感じてくれる人がいたならば嬉しいと思います。