<裏・赤ずきん>




 「お遣いを頼んでもいいかい?」

 「はい。何をすればいいの?お母さま」

 「おばあさまの所へこれを…」


母親は目の前にやってきた少女に、一つのバスケットを渡すと、それだけを告げた。

少女はそれだけで全てを了承し、ひとつ頷いた。


 「わかりました。それでは行って来ます」


少女は薄く微笑んで家を出た。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



木々の間から木漏れ日が入り、清々しい森の中。

一人の少女が歩いていた。

赤い服で身を包み、頭にはすっぽりと同色の頭巾を被っている。

動きに合わせて、三つ編みに結った栗色の髪が揺れる。

手には白い布を被せたバスケットを大事そうに持っていた。

少女は一軒の家の前で足を止めた。

木造のドアを二回叩く。


 「あばあさま、私です」


そう言ってから、返事が来る前からドアを開けた。

奥に一つのベッドがあり、布団が盛り上がっている。

其処からふいに声がかかった。


 「まぁ、いらっしゃい。よくきたねぇ。もっと近くに来て顔をよく見せておくれ」


少女は言葉に従って、ベッドの隣まで進んだ。

ベッドの中の者は布団で隠れて、目しか見えない。

その目が笑ってこう言った。


 「かわいくなったねぇ」

 「それは、おばあさまの孫だもの」


少女は笑顔で答えた。

そして前者は再び言った。


 「澄んだ目をしているじゃないか」

 「それは、私が悪いことをしていないからよ」


さらに明るい笑顔で少女は答えた。

前者は目を細めて言った。


 「お前は、いつも赤い服を着ているね」

 「それはね・・・」


そう言うと少女はバスケットにかかっていた布を取り、中から何やら光るモノを取り出した。

彼女はそれを振りかざした。


 「こういうことをしているからよ。オオカミさん?」


静かに放たれた言葉と同時に振り下ろされた手には、大き目のナイフが握られていた。

ぴしゃりと鮮血が迸る。

その刃は、祖母に化けていたオオカミの首と胴を、分断させていた。

声を出す間もなく、オオカミは息絶えた。

少女は首元にあったナイフを引き抜くと、既に息が無いにも拘らず、今度は腹部を目掛けて

突き刺した。

ほんの少しもぞもぞと動いていた腹が、動きを止める。

少女はくすりと笑うと、バスケットからグラスを一つ取り出し、赤い液体を注いだ。

一口仰ぐと、少女は冷ややかな笑みを浮かべた。

今口に入れた赤い鮮血が、口端から一筋零れ出る。

少女の顔や身体には、多くの返り血が付いていた。

それを気にすることなく、少女は少々と笑い続けた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 ―澄んだ目をしているのは


     獲物を逃がさないために


 ―かわいい顔をしているのは


     相手を油断させるために


 ―服がいつも赤いのは


     多くの者を殺したために




     返り血が染み付いたから… 






               <END>




裏・赤ずきん。どうでしたか?天藍さま。
  オオカミと赤ずきんの台詞を変えたらどうなるんだろう?
  と思って書いたものなんですが・・・。
  思い描いてる時点で、赤ずきんが怖くなってきました。
  おまえが書いたんだろう!って、ええ、そうなんですけどね。
  他のもありますから、これが嫌!ってときは言って下さい。